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京都地方裁判所 平成元年(わ)538号 判決

主文

被告人有限会社すずやを罰金五〇万円に、被告人轟和治を懲役一年二月に処する。

被告人轟和治に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人有限会社すずやから押収してあるビデオカセットテープ六本(平成二年押第二五五号1の11ないし16)を没収する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人有限会社すずやは、ビデオカセットテープの販売、賃貸業等を営んでいるもの、被告人轟和治は、同社の代表取締役として同社の業務全般を統括掌理しているものであるが、被告人轟は、被告人有限会社すずやの業務に関し、

一  株式会社バンダイが著作権を有する映画著作物(「魔法のプリンセスミンキーモモVOL4」外一作品及び右映画の映像とともに録音された社団法人日本音楽著作権協会が著作権を有する音楽著作物「魔法のプリンセスミンキーモモ背景音楽」外二曲)の複製ビデオカセットテープ合計七本を、右各著作権者らの許諾を得ずに複製されたものであることの情を知りながら、その情を知らない米田孝一をして、別紙一販売一覧表記載のとおり、昭和六二年四月七日ころから同月二二日ころまでの間、前後五回にわたり、北九州市八幡西区折尾五丁目八番四号「ビデオハウス現代」店舗内外三か所において、平山利勇こと尹春植外三名に対し、代金合計一万一九五〇円で販売して頒布し、もって、前記株式会社バンダイ等の著作権を侵害し、

二  パラマウントピクチュアズコーポレーション外三社が著作権を有する映画著作物(「恋に落ちて」外五作品)の複製ビデオカセットテープ合計六本を、右各著作権者らの許諾を得ずに複製されたものであることの情を知りながら、別紙二貸与一覧表記載のとおり、昭和六一年一〇月二二日ころから同六二年一二月一八日ころまでの間、前後八回にわたり、京都府城陽市平川古宮一二番地の五有限会社すずや店舗内外一か所において、その情を知らない同店従業員らをして、小宮和彦外六名に対し、料金合計七四〇〇円で貸与させて頒布し、もって、前記パラマウントピクチュアズコーポレーション等の著作権を侵害し、

第二  被告人轟は、

一  別紙三貸与一覧表記載のとおり、昭和六二年六月二六日ころから同六三年二月一〇日ころまでの間、前後二八回にわたり、右有限会社すずや店舗内外一か所において、情を知らない同店従業員らをして西岡一則外六名に対し、男女性交の場面等を露骨に撮影したわいせつビデオカセットテープ「乱舞女の給料日」等二九本を代金合計一万四九〇〇円で貸与させて頒布し、

二  米田孝一と共謀の上、別紙四販売一覧表記載のとおり、昭和六二年八月二一日ころから同年一〇月二六日ころまでの間、前後七回にわたり、福岡県直方市大字下新入六三〇番地の五第一天神ビル一階「ビデオショップマリヤ」店舗内外二か所において、野田重信外二名に対し、男女性交の場面等を露骨に撮影したわいせつビデオカセットテープ「乱舞そよ風」等三四本を代金合計一九万一四〇〇円で販売し、

三  販売の目的をもって、昭和六三年三月二日ころ、京都府城陽市久世里ノ西一六八番地の二二所在の有限会社すずや本店事務所において、男女性交の場面等を露骨に撮影したわいせつビデオカセットテープ「スリープレスナイト眠れない夜」二九本を所持し

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(争点に対する判断)

被告人及び弁護人は、判示第一の著作権法違反の点につき告訴の無効などを主張して公訴棄却の判決を求め、あるいは有限会社九州すずやが被告人有限会社すずや(以下「被告会社」ともいう。)とは別個の営業主体であること等を理由にして無罪を主張し、また判示第二のビデオテープには猥せつ性はないとして無罪を主張するなど、るる事実上及び法律上の主張をするので、以下に主要な所論について、当裁判所の判断の要旨を示すこととする。

一  刑事訴訟法三三九条二号により公訴棄却を求める主張について

弁護人及び被告人は、本件公訴事実第一(=判示第一の各事実)はそれが真実であっても、何らの罪となるべき事実を包含していないから、刑事訴訟法三三九条二号により公訴棄却を求める旨主張する。すなわち所論は、判示第一の各事実は、被告人轟が被告会社の業務に関し、著作権者の許諾を得ないで複製された映画著作物及び音楽著作物を米田孝一あるいは従業員らをして販売又は賃貸させて頒布したというものであり、右行為は著作権法一一三条一項二号により著作権を侵害する行為とみなされ、この行為が同法一一九条一号にいう著作権を侵害する行為に該当するとして訴追されているものであるが、同法一一三条一項が規定するみなし侵害行為は、民事上の権利救済に関する規定であって、刑事罰を定めた同法一一九条にいう侵害行為には該当しないというのである。

たしかに、著作権等を侵害するとみなす行為を定めた同法一一三条の規定は、差止請求権を認めた同法一〇二条の規定その他、権利侵害に関する救済を定めた「第六章権利侵害」の個所にあって、「第七章罰則」の中には設けられていない。

右規定の体裁上からすると、所論の指摘にも一理あるかと思われなくないが、しかし、規定の法文中における位置に差異はあっても、同一の法律中で、いやしくも権利侵害行為とみなされ、そのように定められた行為は、右「みなし効果」を差止請求など特定の効果に関するもののみに及ぼす旨の明文の規定がない限り、すべての規定―従って罰則との関連においても、とくに刑事罰の対象からみなし侵害を除く明文のない以上、侵害とみなされると考えるのが、立法の原則上、当然であると解されているところである(検察官が論告において引用する東京高裁昭五八年一一月七日判決高刑集三六巻三号二八九頁は、商標権侵害罪につき詳細な理由をあげて同旨の結論をとるべきことを明らかにしている。)。

従って、判示第一の一及び二の各所為は、同法一一三条一項二号により著作権を侵害する行為とみなされ、これが罰則規定である同法一一九条一号所定の著作権を「侵害」する行為に該当することは明らかであるというべきである。

右所論は採りえない。

二  判示第一の一の公訴事実に対する告訴が無権限者による告訴であるとの主張について

被告人は、株式会社バンダイ(以下「バンダイ」という。)が判示第一の一事実についてなした著作権侵害を理由とする告訴は、権利者でない者がした告訴であり、無効であるから、本件公訴は棄却すべきであると主張する。

そこで先ず、判示第一の一の映画著作物の著作権の所在についてみるに、株式会社葦プロダクション(以下「葦プロ」という。)の証明書及び回答書(検92、241)など関係証拠によると、〈1〉判示第一の一の各映画著作物は、葦プロが「魔法のプリンセスミンキーモモ」シリーズとして制作した映画著作物であり、同社が右映画著作物の著作者として著作権及び著作者人格権を有するところ、昭和五八年一一月同社が右映画著作物の著作権の一部であるビデオ化権(ビデオグラムの形態による複製権、頒布権及び上映権。その意味につき検286参照)をバンダイのみに譲渡したこと、〈2〉同六〇年三月、バンダイの機構改革により右ビデオ化権は同社から株式会社ネットワーク(以下「ネットワーク」という。)に譲渡され、更に同六三年三月、バンダイグループの映像関連事業の組織再編制に伴い、これがネットワークからバンダイに再度譲渡されたことが認められる。

しかして、著作者は、著作権の全部又はその一部を譲渡し(著作権法六一条一項)、あるいは他人に対しその著作物の利用を許諾することができる(同法六三条一項)ところ、バンダイ及びネットワーク作成の上申書(検2)、前記染谷の証人尋問調書等によると、バンダイと葦プロとの契約は、債権的な著作物利用許諾契約ではなく、著作権の一部であるビデオ化権の物権的な譲渡契約であると認められ、バンダイが本件映画著作物の著作権の一部であるビデオ化権を有することは明らかというべきである。

そして、右映画著作物の本件著作権侵害行為時の著作権(ビデオ化権、以下単に著作権ともいう。)者は、ネットワークであるが、その後バンダイに右著作権が譲渡され、告訴時、起訴時及び現在の著作権者はバンダイであるところ、著作権の承継人は、その承継前に発生した侵害行為についても告訴権を有すると解されるから、バンダイが本件映画著作物についての著作権侵害行為に対して告訴権を有することは明らかである。

従って、バンダイからなされた本件告訴は、告訴権を有する者による告訴であるから、右所論は失当である。

三  本件告訴は告訴期間経過後の無効な告訴であり、公訴棄却の判決をなすべきであるとの主張について

弁護人は、判示第一の各罪につき、被告人轟は、昭和六三年二月末日頃、「当社は過去数度にわたって貴社の所有される作品の著作権を侵害致しました」と記載した陳謝状を株式会社エイ・イー企画に提出し、また、その頃、同被告人はバンダイと通じているネットワークへ行って、本件公訴事実第一の著作権侵害について陳謝もしている。そして、右陳謝状は、その頃エイ・イー企画の宮下敏延より、バンダイにファクシミリで送られ、右陳謝状はバンダイの代表取締役その他の役員がこれを知ったのであるから、バンダイは昭和六三年二月末頃には本件の著作権侵害を確定的に知ったものである。従って、判示第一の映画著作物の著作権侵害に関する刑事訴訟法二三五条の告訴期間は昭和六三年二月末日から起算され、同年八月末の経過をもって右告訴権は消滅したというべきところ、バンダイが本件告訴に及んだのは同年九月一九日であるから、右告訴は刑事訴訟法二三五条に違反する無効な告訴であるから、公訴事実第一については刑事訴訟法三三八条四号により公訴棄却の判決を言渡すべきである、と主張する。

(1)  先ず、証人染谷幹人に対する当裁判所の尋問調書、弁護士竹内澄夫の告訴状等関係証拠によると、バンダイは、昭和六三年九月一二日福岡県東警察署係官から同社が著作権を有する本件映画著作物の無許可複製物を被告会社が販売した事実及び被告人轟が無許諾複製物たる情を知っていた事実が判明した旨知らされ、同社は右警察の具体的な著作権侵害の事実の説明を受けて、初めて具体的な犯罪事実を知ったこと、同社代表取締役山科誠が弁護士竹内澄夫らに本件告訴を委任し、同弁護士らが同月二〇日、福岡県東警察署司法警察員に対し、著作物及び頒布先等の犯罪事実を特定して被告人轟及び被告会社を無許諾複製物を頒布した著作権侵害により告訴したこと、以上を認定することができる。

(2)  他方、司法警察員の捜査報告書(検230)、前記染谷の証人尋問調書など関係証拠によると、被告人轟が昭和六三年二月末日ころエイ・イー企画に所論の内容の陳謝状を提出し、又、同社代表取締役萩原らと会い陳謝した事実が認められる。

更に、エイ・イー企画は、バンダイ製作のビデオ商品を多量に販売しており、また被告会社がエイ・イー企画を通じバンダイの商品を大量に買付けているなどの取引関係があり、右三社間の取引関係等に照らすと、被告人による前記エイ・イー企画に対する陳謝の一件は、同社の担当者を通じ、その時期ころにバンダイ及びその子会社のネットワークの担当者に連絡されたと推認するのが相当である(但し、この点については的確な直接証拠はなく、更にバンダイ及びネットワークの担当者らが右陳謝の件を認識したのが、昭和六三年二月末ころであるのか、それとも同年三月以降のいつの時点のことになるのかについては、証拠関係は一段と稀薄となっているが、前記三社間の取引関係等から前記のように推認した。)。

しかし、右陳謝状の文面自体には著作権侵害行為についての具体的な記載は何もなく、どの著作物についてどのような形態で著作権を侵害したのかの点は全く不明である。また、被告人の説明によっても、右萩原らとの話合いの席でも、右陳謝状にいう著作権侵害の事実に関しては、何ら具体的な話はなかったというのである(被告人轟の第一一回及び第一三回公判での供述参照)。

ところで、本件のような形態等をもってなされる著作権侵害事件にあっては、現実に侵害行為が行われている被害時には、著作権者自身は自己の著作物に関する被害発生には気付いていないのが通常であるから、刑事訴訟法二三五条の告訴期間の起算時を定めるに当たっても、この種著作権侵害事犯の実態ないし特色等をも考慮し、著作権者において、いかなる著作物につきどのような形での侵害行為が行われたかを、(犯人を特定し)告訴をなしうる程度の具体性をもって確定的に認識把握した時期であると解するのが相当である(親族相盗例が準用される詐欺罪に関する広島高裁判決平成二年一二月一八日判例時報一三九四号一六一頁参照)。

本件についてこれをみると、前記昭和六三年二月末日ころにおけるエイ・イー企画関係者との間で陳謝状を提出して陳謝がなされた(またこれがバンダイ及びネットワークにも伝達された。)事実をもってしては、未だ侵害事実に関する具体性を欠如しており、告訴権者において本件著作権侵害の被害を受けたことを確定的に認識したものとは言いえないと解すべきである。

(3)  しかして、前記(1)認定の事実によれば、告訴権者であるバンダイは、昭和六三年九月一二日に至り本件犯罪(侵害)事実を確定的に認識したものというべきであり、告訴期間は同日から起算されるから、同月一九日になされた本件告訴は、もとより有効である。

右所論は、理由がない。

四  判示第一の一の音楽著作物の著作権に関する告訴権について

関係証拠によれば、「魔法のプリンセスミンキーモモ」の背景音楽は高田弘が作曲し、「ラブラブミンキーモモ」及び「ミンキーステッキードリンパ」は荒木豊久が作詞し佐々木勤が作曲したもので、右高田弘ら三名が右音楽著作物の著作者として著作権及び著作者人格権を有するが、右高田は昭和三八年一〇月二四日、右佐々木は同三九年三月二日、右荒木は同四三年一一月八日それぞれ社団法人日本音楽著作権協会(以下単に「協会」という。)に各自が有する著作権及び将来取得する著作権の管理を信託したこと、そして右著作権信託契約約款によれば、受託者は信託著作権等の管理に関し、告訴し、訴訟を提起することができるとされている。

従って、右によれば同協会が本件音楽著作物についての著作権侵害行為に対して告訴権を有することは明らかである。しかして、同協会理事から本件告訴を委任された弁護士が、昭和六三年九月二〇日福岡県東警察署司法警察員に対し被告人轟及び被告会社を著作権法違反により告訴している(弁護士柳井義郎作成の告訴状=検4)から、右本件告訴が正当な告訴権者による適法有効な告訴であることは明らかである。

五  弁護人は本件公訴事実第一の一(=判示第一の一)につき、「被告人轟は右行為当時の昭和六二年四月頃は被告会社の代表取締役であった。また有限会社九州すずや(以下「九州すずや」という。)の出資金三〇〇万円の内金二五〇万円は米田孝一(以下「米田」という。)が出資し、米田自らが店舗も借り従業員を雇用し、商品の仕入れは被告会社からが多かったとはいえ、他からの仕入れも許されていたし、又、収支計算は九州すずやが独自に行っており、納税も被告人轟とは別に行っていた。九州すずやは被告人らとは全く別の独立した会社であるから、九州すずやの判示第一の一の行為が仮に認められるにしても、それは被告人轟とは全く関係がないことであるから、同被告人は無罪である。」旨主張する。

証人米田孝一及び同中村敏彦の当裁判所の尋問調書、右証人米田の当公判廷の供述、同人の員面調書(検62、63等)など関係証拠によると、有限会社すずや九州支店(以下「九州支店」という。)は、昭和六一年二月一〇日米田孝一が支店長になって営業を開始し、被告人轟の発案で法人化することとし、被告人轟が五〇万円米田が二五〇万円を出資して、同六二年三月二日九州すずやが設立され、米田孝一が代表取締役に就任し、同月二五日被告人轟も同社の代表取締役に就任し、同年一二月一一日有限会社ベル映像に商号変更したこと、本件当時九州支店は形式的には被告会社とは別会社になっていること、九州支店は、被告会社とは形式的には独立採算性で、被告会社から商品を仕入れてこれを顧客に販売し、同支店の経費は同支店で負担していたこと等の事実が認められる。

他方、関係証拠によると、九州支店はすべての商品を被告会社本店から仕入れていたこと、九州支店が直接メーカーから納品を受けることはあっても、帳簿上被告会社がメーカーから仕入れるもので、メーカーには被告会社から直接代金が支払われていたこと、九州支店から顧客への販売価格は被告人轟が送付する「すずやのご案内」に価格を記載して指定されていたこと、九州支店では被告会社本店以外からの仕入れはなかったこと、被告人轟が米田に経理上の指示をし、手形決済には事前に被告人轟の承諾を必要とし、九州支店の受取手形は、被告会社が取り立てていたこと(当裁判所の証人米田孝一及び中村敏彦)九州支店の事務所には、九州すずや設立後も有限会社すずやの看板が掲げられ、事務所のドアと使用車両に有限会社すずや九州支店と表示されていたこと、九州支店の納品書、請求書等の伝票が有限会社すずや九州支店名義で作成され、取引は九州支店名義でなされていて、客も「すずや」九州支店を取引相手と認識していたこと(当裁判所の証人尹春植の証人尋問調書)、九州支店の顧客のレンタルビデオ業者に被告会社宛の念書を入れさせていたこと(念書綴り((平成二年押第二五五号の2)))、九州支店の顧客に対する裁判上の請求を被告人轟が被告会社名義で行っていたこと(福岡地方裁判所長作成の捜査関係事項照会回答書((検240)))等が認められる。

以上の事実を総合すれば、すずや九州支店は形式的には「有限会社九州すずや」という別会社の形式をとっていたが、被告会社から独立して営業活動を行う権限はなく、九州支店は被告人轟の指揮下にあり、実質的には被告会社の九州地区における営業部門とみるべき存在であり、また支店長米田孝一は形式的には「有限会社九州すずや」の代表取締役であるが、実質的には被告会社の従業員的地位にあったものとみられるのである。

被告人轟も捜査段階においては、概略、「各支店を独立採算制にしたのは、支店長の不正経理を防止し、支店長にやる気を起こさせ、被告会社の危険負担が少なく、利益も上がるからであり、被告会社の本店が仕入部門、九州支店は被告会社の卸販売部門であり、被告人轟が被告会社の代表取締役として、同支店長米田に営業指示を与え、米田は、被告人轟の指示に忠実に従っていた。」旨供述しているところである(被告人轟の昭和六三年九月一日付員面調書検79参照)。

かように、米田は九州すずや代表取締役という形式上の資格に拘わらず、被告人轟の個別的ないし包括的指示の下に九州支店の業務に従事していたもので、判示第一の一の無許諾複製品の販売も右業務の一環としてなしていたのであるから、被告人轟は米田の行為を介して本件著作権侵害行為を行ったと認めるのが相当である。

右所論は、採るをえない。

六  判示第二の各事実にかかるビデオテープの猥せつ性等に関する主張について

弁護人及び被告人は、「判示第二のビデオテープには、所謂ボカシが入っていてなるべく性器や陰部等が見えないように工夫されている。又、同テープは長時間でないものの物語性もある程度あり、芸術性の判断には主観によって異なり(例えば近時は一見芥と思われるものにも芸術性を見出すものもいる)、右テープに美を創造、表現する側面を全く否定することは出来ない。近時、性の開放というものが叫ばれてもおり、本件程度のものは猥せつ性を有せず許されるものと解すべきである。同被告人も右ビデオテープは猥せつ性を有しないものとの確信をしていたのである。

右各罪につき、被告人は無罪である」旨主張する。

関係証拠によると、判示第二の頒布、所持にかかるビデオテープは、いずれも日本ビデオ倫理協会の審査済のマークが付いておらず、日本ビデオ倫理協会の審査を受けたものではない。又、その大半の内容は、男女による手淫、口淫、性交等の場面で、性器や性器の結合等状況、手淫、口淫状況等の描写があり、いずれも性器等にぼかしが入っているが、ぼかしが薄くて容易に性器等を識別でき、ぼかしが入っていない場面も散見され、いささかも芸術的内容を含むものではなく、男女の性器、性交場面等を露骨に撮影したものと認められる。

かかる内容のビデオテープは、現在の社会通念をもってしても、なお猥せつ図画に該当することは明らかというべきである。

被告人轟は、当公判廷において、本件ビデオカセットテープは猥せつ図画ではないと信じていた旨弁解する。しかし、被告人は日本ビデオ倫理協会の審査を受けていないアダルト商品はすべて自ら内容を検査し、その内容を認識した上で販売、頒布していたものである。そして、猥せつ文書等頒布罪の故意としては、その文書等の内容を認識していればそれで足り、客観的に猥せつ図画であると認められる物を被告人轟が猥せつでないと考えたとしても、それは法律の錯誤であり、故意を阻却するものではない。

右所論も、理由がない。

(法令の適用)

被告人轟及び被告会社の判示第一の一及び二の各所為は、それぞれ別紙一及び同二の各頒布行為毎に、著作権法一二四条一項、一一三条一項二号、一一九条一号に該当し、被告人轟の判示第二の一及び二の各所為はそれぞれ別紙三及び同四の各頒布行為毎に、行為時には平成三年法律第三一号による改正前の刑法一七五条前段、同罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時には右改正後の刑法一七五条前段に該当する(但し判示第二の二につき更に同法六〇条を適用)ので、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑により、判示第二の三の所為は行為時には前記改正前の刑法一七五条後段、同罰金等臨時措置法三条一項一号、裁判時には右改正後の刑法一七五条後段に該当するので、同法六条、一〇条により軽い行為時法の刑により、被告人轟につき各罪につき所定刑中各懲役刑を選択し、被告会社につき各本条所定の罰金刑によることとする。被告人轟の判示各所為は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、被告会社の判示第一の各所為は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金五〇万円に処し、押収してある主文掲記の判示第一の二の罪にかかるビデオカセットテープの没収につき刑法一九条一項一号、二項を適用し、被告人轟及び被告会社について訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文を適用する。

よって、主文のとおり判決する。

別紙一

販売一覧表

〈省略〉

別紙二

貸与一覧表

〈省略〉

別紙三

貸与一覧表

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙四

販売一覧表

〈省略〉

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